国分(こくぶ)に「お観音(かんのん)さま」とも「水堂(みずどう)」ともよばれている清水寺(しみずでら)があります。現在は、龍峰寺(りゅうほうじ)といっしょになっています。この清水寺の仁王門(におうもん)の前に今から百年ぐらい前まで大きなすばらしい松がそびえ立っていました。「竜灯の松(りゅうとうのまつ)」とよばれたこの松にまつわる話です。
清水寺からそれほど遠くない所に目久尻川(めくじりがわ)をせきとめてつくられた滝(たき)がありました。この滝に一匹の竜(りゅう)が住んでいました。竜は夜になると清水寺に行き、大きな松のいちばん高いところに、仏様(ほとけさま)のおしえをしめす明かりをあげて、お観音様(かんのんさま)につかえていました。村人は、毎夜この松にあがる明かりを見て、喜び、この松を「竜灯の松」と呼んで大切にしました。竜灯(りゅうとう)とは、竜の灯(あかり)という意味です。
ある年のことです。
茅ヶ崎(ちがさき)の漁師(りょうし)が海に出たところ、天気が急にかわり大あらしになってしまいました。舟は遠くへと流されていくので、漁師は一生けんめいこいで陸地(りくち)にもどろうとするのですが、大あらしの力にはかないません。そのうちとうとう夜になってしまい、どの方向に舟をこいでいったらよいかわからなくなりました。漁師はこぎつかれて舟の中にたおれてしまいました。
すると夢の中に、水堂(みずどう)の観音様があらわれて、「わたしがあなたをたすけてあげます。この松の明かりを目ざしてこいできなさい」と竜灯の松をしめしました。ぱっと目をさました漁師は、ありがたい観音様のおしえだ、と勇気(ゆうき)をふるい起こして、はるか北に見える竜灯の松を目ざしてこいでゆき、陸地につくことができました。
今では竜灯の松のあともありませんが、竜灯の松をえがいた大きな絵馬(えま)や石碑(せきひ)が残っています。
(こどもえびなむかしばなしより)
龍峰寺の本堂(りゅうほうじのほんどう)
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竜灯の松の石碑(せきひ) |